要求の引き出し                                   竹腰重徳    

  「要求の引き出し」はステークホルダーや他の情報源から情報を引き出す活動である。要求の情報を得る活動を「要求収集」という言葉が使われているが、その言葉はあたかも要求というものがすでにステークホルダーに存在しているような錯覚を覚える。ステークホルダーは、欲求やニーズは持っているが、それらの真の要求を明確に表現できないことが多い。「顧客に欲しいものを聞いたら、彼らは『もっと早い馬が欲しい』と答えたであろう」とヘンリーフォードの有名な言葉がある。従って要求はステークホルダーが定義するのを待ってただヒアリングして収集するのでなく、ステークホルダーとの相互作用による能動的な活動を通じて創り出すもので、ステークホルダーとの創造的コラボレーション活動が必要である。「要求の引き出し」は「要求収集」以上のものである(1)。

  「要求引き出し」の手法として以下に述べる手法(1)を、プロジェクトの状況に応じてうまく組み合わせて使うとよい。
・ブレーンストーミング
  グループによるアイデア発想法の一つである。議論の参加メンバー各自が自由奔放に意見を出し合い、互いの発想の違いをテコにした連想を通じ、さらに多くのアイデアを生み出していく。要求に関する複数のアイデアを考え出し、要求をまとめていく。
・ドキュメントアナリシス
  存在する文書を分析し、要求に必要な情報を特定する。ビジネスアナリストはステークホルダーとコラボレーションを開始する前に、環境や状況を理解するためにこの分析手法を使う。
・ファシリテーション型ワークショップ
  予め討議の対象となるテーマを決め、テーマに関係する人を一堂に集め、集中的に討議を行う会議体で、中立的な議事進行役によって運営される。この技法により、参加者間の信頼が構築され、相互の関係が親密になり、コミュニケーションが改善され、新しいアイデアの創出に威力を発揮し、全員が合意する要求に関する結論を迅速かつ効果的に導くことができる。
・フォーカスグループ
  その分野の専門家のグループ環境で提案するプロダクトやサービスに関する意見や考えを引き出す手法で専門家の意見から学ぶ引き出し手法である。
・インタビュー
  ステークホルダーと直接対話することによって必要な情報を見出す方法で、通常、予定した質問と話の展開に応じた質問を行い、それに対する回答を記録するという手法が取られる。
・観察
  プロジェクトの対象となる現場へ実際に行って、業務担当者個人やその作業、処理方法を自分の目で見たり体験したりして、問題点や要求を引き出す。
・プロトタイピング
  最終的なプロダクトやサービスを構築する前に、その試作をステークホルダーに提供することによって、要求に対するフィードバックを早い段階で得ることができる。この方法は、要求事項を抽象的な形で議論するだけでなく、具体的な形で成果物がイメージでき、潜在的な要求までも引き出すのに役立つ。
・アンケート調査
  広範囲にわたる潜在的エンドユーザーからの要求に関連する情報を迅速に集めることができる。
・マインドマッピング
  発想やアイデアを広げ整理する思考法の一つで、表現したいキーワードを中心に置き、それに関連するキーワードやイメージを放射状に広げていく。実際の脳の中で行われている記憶の仕組みに沿った形で思考を広げ、視覚化していくことで、物事の整理や理解を素早く行うことができ、新たな発想を生み出しやすくなる。

 なお、「要求の引き出し」はプロジェクトライフサイクルにより、それを実行するタイミングや詳細化や確定の仕方が異なる。予測型ライフサイクルであるウォーターフォールでは、要求定義フェーズに要求のすべてを詳細化し確定する。そして開発フェーズでは要求変更を厳格に管理しながら開発する。事前に要求が確定でき、要求変更があまり生じないプロジェクトに向いている。一方、適応型ライフサイクルであるアジャイルは反復漸進的に開発を行うため、反復ごとにその反復に必要な要求だけを詳細化し確定しておけばよく、開発途中の要求変更には柔軟に対応できる。事前に要求のすべてが確定できないプロジェクトや要求変更の多いと予想されるプロジェクトに向いている。
                                                            以上

参考資料
(1)PMI®、Business Analysis For Practitioners、2015  


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